大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)1526号 判決
「被告はAに対して本件約束手形を振出し、原告はAからその裏書譲渡を受けて、Bに裏書譲渡したところ、Bがこれを呈示して支払を拒絶されたので、原告はBに償還支払してみぎの手形を受戻した上被告に手形金の支払を求めた。ところが本件手形は被告からAに、Aから原告に順次割引かれたもので、被告とAとの間の割引契約は合意解除され、Aから原告に対する割引依頼も既に有効に撤回されていたので、原告はAに、Aは被告にそれぞれ手形を返還すべき関係にあつた。
右の如く被告会社はAに対して又Aは原告組合に対してそれぞれ本件手形の返還を求める権利があり、右請求権はいずれも履行期が到来していたことは明らかでありAは原告組合に対し訴の提起等の有効な方法により右返還請求権を行使していたことの認められない本件では民法第四百二十三条により被告会社はAに対する本件手形の返還請求権を保全するため債権者としてAの原告組合に対する右請求権を代位行使し原告組合に対して直接本件手形の返還を求めることができるものであるところ、被告会社はその主張のとおり同年四月五日頃に原告組合副理事長Cに対して前記の事情を説明して本件手形の返還を求めたことは当事者間に争のないところであり、右返還請求の際被告会社に於て特に債権者代位権を行使する旨を告げていることを認める証拠がないが債権者代位権を行使するためには代位権を行使できる事実関係を明らかにして権利を行使するを以て足り、特に債権者代位権の行使という如き用語を使用する必要がないものであつて、被告会社の右返還請求は債権者代位権を行使しているものと解せられるから、原告組合は直接被告会社に対して本件手形を返還する義務を生じたものといわなければならない。もつとも原告組合がその主張の如くその後本件手形を他に裏書譲渡し手形不渡の結果償還支払をしてこれを受戻していることは当事者間に争いがないが右受戻の結果原告組合は裏書前の所持人たりし旧地位を回復しているのであるから右事実によつては本件手形の返還義務に消長を来すものではない。(中略)
しかるに手形の返還という如き特定の請求権を保全するため債権者代位権を行使してこれが所持人に右手形の返還を求めている者が手形上の債務者であつて所持人から手形金の支払を求められた場合は所持人に手形の返還義務のあることを人的抗弁としてこれが支払を拒むことができるものと解すべきところ、本件に於ける被告の被告とAとの割引依頼は取消され原告はA及び被告から本件手形の返還を求められたのであるから、被告に対してこれを返還する義務があるものというべく、従つて被告に対して手形金を請求する権利がない旨の主張は右人的抗弁を行使しているものと認められるが、被告が本件手形の返還請求権を保全するため債権者代位権により原告に対しこれが返還を求めており、原告に返還義務のあることを前記認定の如くである以上被告は、原告に対して本件手形金の支払を拒むことができる。」